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いつの間にか白い物が、さらさらと天から落ち始めていた。
その中を何度も何度もおじぎをしながら、女の子は遠ざかっていく。おそらくそのまま
イルミネーション・カウントダウンを見るのだろう。
1人だけど、2人で。
テレビ塔の時計は、2003年と呼ばれる年の残りがあと数分であることを示していた。
もうすぐ、来るべき年を迎えるカウントダウンが始まるはずだ。何年前か、誰とかは知
らないけれど、あの娘はここで、この時、永遠の幸せを約束された。
たぶんその約束が違えられることはないのだろう。
デジタル時計の表示がひとつ、動く。それを見ながら京子はさっきの別れ際の会話を思
い出していた。
「・・・一つ、確認させて。・・・・ねえ。例のイルミネーション・カウントダウンの
キス、っておまじない効くのかな?」
「え?」
女の子はちょっと意外そうな表情になり、京子の顔をじっと見る。そしてまた、微笑み
今度はイルミネーションに視線をそらす。
「うーん・・・・どうなんでしょうね。ただ・・・」
「ただ?」
「あれで、お兄ちゃんを・・・いえ、あの人を信じる気持ちを、信じて待つ気持ちを
強く持てるようになったと思います」
「信じて、待つ、気持ち・・・」
「離れてると、不安なんですよね。どんなにこころが通じていると思っても。よく
わかります。『監督さん』の今の気持ち」
彼女の目線が京子を真っ直ぐに見る。今度は、ファインダー越しでなく。
「私、弱虫だから、不安で不安で仕方がなかった。夜中に目を覚まして、泣き出したく
なったことが何回も何回もあります」
女の子はそこでちょっと何かを思う。
「でも、イルミネーション・カウントダウンを、あの人が 一緒に見てくれて、そこで
キスをしてくれたことを思い出すと、不思議と安心するんです。また、会えることを
信じられるんです」
「・・・」
「年越しのキス・・・・理屈で言ったら意味なんてないんでしょうね。でも、それで
強くなれる、それでしか強くなれない・・・きっとそんな私みたいな人のためにある
おまじないなんじゃないかな、私はそう思っています」
「それで、強くなれる。それでしか、強くなれない・・・」
「でも、何か『監督さん』はだいじょぶなような気がします。きっと、自分で強く
なれると思います」
女の子はそう言ってそっ、と手を握ってきた。
どんな顔をしたか、京子はまるで思い出せない。やっとの事で笑みを浮かべ、
応えたような気がする。
「・・・・そんな風に見える?」
「はい!」
「ありがとう」
残念だけどハズレ、かもね。
信じて、待つ、気持ち。ね・・・。
雪の舞う中、いつの間にか時刻がまた、1つ動いていた。
そして、次に時計の数字が変わった瞬間、不意に聞きなれた電子音のメロディが
コートのポケットから鳴り響く。
!?
取り出した電話に表示された着番は・・・・今日、何度眺めたかわからない、あの番号。
こういう時、手袋をはめていると何ともどかしいことか。
はい。朝比奈です。・・・うん。私。
今までバイト?ごくろーさん。しっかり旅費稼いでるようね。感心感心。
ま、遠出とかも考えてるからさ。
いろいろと話そうと思っていた。
でも、ずっと待っていた声がする。今はそれだけでよかった。今日、ここで声を聞く
ことができた。それだけでよかった。
こっち?寒いわよ。当たり前のこと聞かないでよね。うん、降ってるわよ。
よくわかったわね。
・・・なあんだ。そういやテレビ局の車いたわね。
今?その大通公園。
カウントダウンでもしようかと思って。
じゃあ、せっかくだから・・・ね、一緒にやらない?
・・・・
やんなさい!やるの!
・・・素直でよろしい!
で、ごめん。ちょっと電話遠いみたい・・・もうちょっと近づけてくれる?
うん・・そのくらい・・・。
あ。始まるみたいよ。いい?
せえの
「5」
大晦日の夜、イルミネーション・カウントダウンで
「4」
年越しのKISSをした恋人たちには
「3」
永遠の幸せが
「2」
約束されるという
「・・・・」
年が明けた。
京子は、口付けていた携帯からそっと唇を離した。あたたかかった。
それはけして自分の体温だけではなかったはずだ。
あけましておめでとう!今年もよろしく・・・・え?なに?最後まで数えたわよ。
ちゃあんと。
聞こえなかった?・・そうそう。きっとバイトで疲れてるのよ。もう寝た方がいいわ。
・・・うん。じゃあね・・。
あ、それから・・・
電話は切れた。最後に言った言葉は届いたろうか。いや、きっと届いているはずだ。
信じよう。そして、
「待ってるからね・・・・また、会おうね」
新しい始まりを、天からの白い輝きが満たしていった。
〜FIN〜