刻(とき)のどこかで
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Chapter 7

「う、嘘って……」 ヘキサが、ほうけたような声で聞いた。 「私は、過去の事を覚えていない、のではなく自分で封印していたのです。 …私は、はるかな昔、遠い遠い昔、兵器として生み出されました」 「!」 「なんですって?」 事情を聞かされていなかったヘキサとトリーシャが驚愕する。 「幾百の戦争に参加し、幾千の敵の、幾万の命を、この手で焼き払ってきたのです。 そうやって永劫という、時を過ごしてきました」 「な、何を、何を言ってんのかわかんねえよっ!」 ヘキサがかぶりを振って叫ぶ。 「しかし、ながい時間のあいだに、私の中には、こころが生まれていました。わたしを はじめに作ったひとびとは、考えてもいなかったことらしいのですが」 「こころを持った・・・兵器」 アルベルトがヴェルミィを見上げてつぶやいた。 「そして、いつのころか、私は自分のしていることの意味に気付いてしまったのです。 けれど、私はしょせん兵器、つくられたもの。指示があれば、この力を振るわな ければいけませんでした。けれど、いつも嫌でした。人の命を奪うのは。戦いに 出るたび、私は泣きました。いつしか私は<嘆きの天使>と呼ばれるようになったの です」 「嘆きの・・・天使」 トリーシャが復唱した。 「私は、この最後の戦いの後、自分の心から、あの忌まわしい戦いの記憶を 封印し、制御中枢を不活性化しました。そうすれば……人の命を奪う機械、と いう宿命から逃げられる。そう思って」 「ヴェ、ヴェルミィはそんなんじゃないよ。そうだよ。そうだよな」 ヘキサが何かを懇願するように言った。 「……でも。違いました。私は、また、目覚めさせられました。破壊と殺戮を 撒き散らすものの道具として」 ヴエルミィの氷のような視線が、 フランク・ブラスターを睥睨した。 「てめ・・」 フランクの首筋に、いいようのない戦慄が走った。 「けっきょく、私の力を知り、それを欲する者がいる限り、私は 私自身から逃げられないのです」 「こ、こいつ人形の癖に生意気な」 フランクは威嚇のつもりか拳銃をヴェルミィに撃ち込む。 「…私がどうやって縄をほどいたか、という事に考えが及ばなかったのですか?」 「!」 ヴェルミィを狙った弾はヴェルミィの側に近づくとじゅっ、と蒸発する。 「ひ、ひぃぃぃ」 自分の立場にやっと気付いたのか、フランクが情けない声を上げた。しかし、 ヴェルミィは表情一つ変えずつぶやく。 「コントロール・コア所持者の敵対的存在の排除を開始します」 ヘキサが手に持った、あの宝珠を見つめた。 「まさか・・・こ、こいつが・・・」 ヴェルミィがヘキサをちら、と見た。その瞳は、確かにヴェルミィがあの時 見せた、あの光に満ちていた。 「それほど、あの、人のいのちを奪う為の力が、見たいですか?」 ヴェルミィが、悲しそうに、そして怒りをこめた口調で言った。 フランクは動けなくなっていた。足ががくがく震えているのがわかる。 「ならば」 刹那、ヴェルミィの体がまばゆい光を放ち始める!。 「うわ!」 その場にいた全員が思わず目を閉じた。 「ヴァーミスラックス・エプタ・トル・ライテル、戦闘フォーメーションに 移行します。」 ヴェルミィの口調から、いつのまにか抑揚と感情のうねりが消えていた。 「ロガ・バルム・エルカリア、ロガ・バラダ・リルケリア、トル・ライダル・ イファリヴィス……」 手で光をさえぎりながらトリーシャが言う。 「こ、古代の魔法言語だ!」 アルベルトが聞き返した。 「何の呪文かわかるか?トリーシャちゃん」 「わかんないよ。あたしも授業でちょっとやっただけだから。シェリルあたりが いればいいんだろうけど……」 「リーガ!」 ヴェルミィ、いや超兵器<ヴァーミスラックス>が呪文の最後の一節を、 ひときわ高く言い終えた。刹那、ヴァーミスラックスの周囲の空間が 歪んだかと思うと、次の瞬間にはその空間には異形の物体が浮遊していた。 大きさはケインの背丈の2倍ほどだろうか。黒水晶のような材質でできて いる。本体部分は球や三角錐といった幾何学図形が奇妙にからみあい、あた かも女性の上半身のようなシルエットを形づくる。そして、その背面には、 凶々しいばかりに美しく輝く6枚の翼が生えていた。 これこそが、古の破壊兵器<ヴァーミスラックス>の真の姿だった。 その場にいた者は、誰も声を出せなかった。 「ち、ちくしょう。こけおどしにのるもんかよ!」 フランク・ブラスターが虚勢を張り、拳銃を撃とうとする。 「愚かな」 ヴァーミスラックスが感情のない声で言うと、羽根の表面に、呪符のような 光のパターンがすばやく走る。 「ひぃ!」 まばたきするほどの間に、フランクの手の拳銃は銃身がまるで何かに切り 取られたようにすっぱりとなくなっていた。フランクは拳銃を放り投げた。 「た、たすけてくれぇ」 フランクは、情けない声を上げる。腰が抜けたらしく四つんばいになりながら その場を離れようとする。 「逃がさない」 羽根に、また呪符のパターンが走る。それと同時にフランクの周囲の芝生が 下の地面ごと、音もなく、円筒形に切り取られる。 退路を断たれたフランクにゆっくりとヴァーミスラックスは向き直った。 「これがあなたが望んだ私の力です。さあ、あなた自身のいのちで、じっくりと 味わいなさい」 ヴァーミスラックスの6枚の翼に一斉に呪符が浮かぶ。 「うぎゃあああああ」 フランクはもはや、言葉にならない悲鳴を上げるのみであった。あの呪符が消える 時、フランクはこの世から消滅するだろう。悪事の報いとはいえ、余りにも凄惨な 状況であった。アルベルトも、トリーシャも、ケインも目を伏せた。その時、声が 響いた。 「やめろ!ヴェルミィ!」 ヘキサだった。 まだ先ほど叩き付けられた衝撃が癒えないらしく、苦しい息をしていた。しかし、 それにも関わらず、ヘキサは声を上げ続ける。 「……おまえが、どんなことをしてきたかなんてのは、俺はどうだっていい! けど、けどここで、おまえが、また、ここで人殺しをしちまえば、おまえは 俺達にとっても、人殺しの機械になっちまうんだぞ!それでいいのかよ! 俺は、俺は……」 ヘキサはそこで一度、言葉を切り、息を吸った。そしてひときわ大きく叫んだ。 「俺はそんなの、絶対イヤだからな!」 「ヘ・・・キ・・・サ」 ヴァーミスラックスの声に抑揚が戻る。羽根の呪符が消滅した。同時に空間が歪み、 ヴァーミスラックスも姿を消していた。その空間には、きらきらと光る小妖精の 姿をした、ヴェルミィが残されていた。ヴェルミィはゆっくりとヘキサの前に 降りてくる。 「ヘキサ……」 「…帰って…きたんだな…よかっ…」 ヘキサはそこまで言うと気絶した。ヴェルミィがヘキサの顔をじっと覗き込んで 言った。 「ありがとう」 「おい。大丈夫かヘキ…てててて」 そう言ったケインは自分がひどい怪我をしてるのを忘れていた。 「無理すんな!トリーシャちゃん応急手当てを……」 かけよったアルベルトが、トリーシャに声をかけようとした時、トリーシャが 叫んだ。 「あっ!あいつ!」 フランクが立ち上り、よろめきながらも逃げようとしていた。 「逃がさないわよぉ!」 トリーシャが猛然と追いかける。 「待て、トリーシャちゃ……」 「今こそ特訓の成果をここに!」 トリーシャの手刀にパワーが集中していく……よーな気がするがきっと気のせい。 「真・トリーシャチョップ烈破乱舞・マッハスペシャァァルッ!」 ばきどかずがどかばきめきぐしゃ 99Hit Combo(うそ) 何だかよく分からないが、トリーシャの必殺技が炸裂したらしく、フランクは 地面に倒れ付していた。 「笑止!」 トリーシャは謎のオーラをゆらめかせて高笑いした というところでとりあえず一件は落着したようだった。いつのまにか月明かりが みんなを照らしていた。