Chapter 5
「ケイン・コーニッグ、アルベルト・コールレイン。入ります」
「うむ」
二人が部屋に入ると、そこにはリカルド・フォスターと自警団の団長が、
厳しい表情で座っていた。
「たいへんなことになった」
リカルドがいつにない重々しい口調で言う。
「と、言いますと?」
アルベルトが聞く。
「テロリストがエンフィールドに入り込んだらしい」
「!」
「テロリストですって?」
ケインが身を乗り出す。
「うむ。名前はフランク・ブラスター。都市破壊を専門にする凶悪犯だ」
「そんなことがどうして」
「今、北のノイバウテンの街から使者が来た。ノイバウテンで破壊工作を行った
あと、エンフィールドに向かったらしい。これがやっこさんの似顔絵だ」
リカルドが人相書きを広げ、二人に示す。
「こいつは!」
「アラン、アラン・スミシーじゃないか!」
二人は驚愕する。そこに描かれた酷薄そうな男は、確かにあのアラン・スミシー
だった!
「やっぱり!」
ケインがいきり立つ。
「知っているのか?」
リカルドの問いに、ケインとアルベルトはこれまでの経緯を話した。
「むう。だとすると非常に危険だ」
リカルドの眉間に皺が刻まれる。
「……ヴェルミィですか?」
「そうだ。実は、フランクはノイバウテンで破壊工作を行った際、というよりも
それが目的だったらしいのだが、ノイバウテンの武器庫から極めて危険な
兵器を持ち出しているんだ」
「兵器?」
「そうだ。<嘆きの天使>と言われる前大戦で使われた大規模破壊兵器だ」
「嘆きの…天使?」
初めて聞く名詞にケインとアルベルトがちょっと戸惑う。半世紀も前の大戦の
事など、若い二人には正直ピンと来ない。
「私から説明しましょう」
団長が口を開く。
「君たち、この街の東に大きな湖があるのは知ってるかね?」
「プロヴィデンス湖、ですね」
「……そうです。あの湖のあった場所には大戦前までプロヴィデンスと呼ばれる
エンフィールドよりもはるかに大きな街がありました」
「街が……どうして湖に……まさか!」
アルベルトとケインは、自分の体から血の気が音を立てて引いていくのを感じた。
「そうです。<嘆きの天使>です。前の大戦でたった一度だけ、あの街に対して
<嘆きの天使>が使われました。一瞬だったそうです。音も、光も、風さえも
起きなかったそうです。さっきまで街のあった場所には、大きなクレーターと
<嘆きの天使>だけが残っていたそうです」
部屋の空気が重量を増したように思える。
「そんな兵器が大量生産されたら」
アルベルトが震える声で言うのを団長が遮る。
「<嘆きの天使>自体は今よりはるか昔の魔法文明の産物のようで、同じ物は
今では製造できないそうです」
「そうですか。でも、そんなものを何で残しておいたんですか?」
今度はケインが口を開いた。
「…製造する事もできないのですが、今の我々の技術では壊す事もできないの
です……」
団長がつぶやいた。いつもの好々爺然とした表情ではなく、歴史の悲劇を
見つめてきた者の表情だった。
少しの間、沈黙が降りた。
「しかし一つとはいえそんな物がテロリストの手に渡ったら!」
沈黙を破れる。そこまで言いかけて、ケインはある事に思い当たった。
「もしかして、ヴェルミィ!」
「<嘆きの天使>は起動されていない状態の時は、小さな妖精に似た形を取る
そうです」
アルベルトとケインは顔を見合わせた。そして、
「わかりました!行動を開始します!」
二人はほぼ同時に叫んだ。
「うむ!頼むぞ。急いで他の団員にも招集をかける」
リカルドがうなずいた。アルベルトが部屋に立てかけられた槍をひっつかむ。
そしてケインに
「俺はアラン、いやフランクを探す!ケインはヴェルミィを保護するんだ」
「一人で大丈夫か?」
ケインがソードを腰にさして聞き返す。
「ああ。それよりも、ヘキサについていてやれ!俺達の大切な仲間だからな」
「もちろんだ!」
二人がドアから外に出ようとした時、廊下から歩哨の叫ぶ声がする。
「待てっ!きさま、どこへ行くっ」
ぱぁん!
「銃声だ!」
二人はドアを叩き壊さんなかりの勢いで外へと出た。廊下では歩哨が肩に銃弾を
受けて床に転がっていた。
「大丈夫か!」
ケインが抱き起こす。
「…ケインさん…黒装束の男が第三部隊の部屋の方へ…」
歩哨が血の気の引いた唇で行った。
「なに!」
「くそ!先手を!」
ケインとアルベルトは、何事かと顔を出したリカルドに歩哨を任せると、部屋に
走った。
部屋のドアがまるで数キロ先にあるように感じられる。二人は部屋のドアの
前に立った。ドアの向こうは異様に静かだ。
二人は最悪の事態を想定し、背筋を冷やす。
「破るぞ!」
ケインが手先に魔力を込める。
「おう!」
アルベルトは、室内では不利な槍を床に置き、腰に挿したショートソードを
抜き、構える。
「ルーン・バレット!」
ケインの指先から小さなエネルギー弾が飛び、ドアのちょうつがいをはじけ
させた。
「いやぁっ!」
ケインがドアを室内に蹴り倒す。
ドアが倒れる音と埃がおさまる。部屋を見渡すとひどい有り様であった。机や
椅子は四方に散らばり、窓は外に向かって落ちていた。壁には弾痕が見えた。
「みんな!無事か!」
ヘキサとヴェルミィの姿はなかった。
「トリーシャ!」
トリーシャが吹っ飛んだ椅子のわきでぐったりしている。ケインが駆け寄り
抱き起こす。
「トリーシャ!しっかりしろ!トリーシャ!」
「あ……」
トリーシャが薄目を開ける。
「ケインさん……ボク、もう駄目だよ」
弱々しい声でトリーシャがつぶやく。
「馬鹿っ!何を言ってるんだ!」
「ううん……自分の事は自分が一番わかってる……」
「しっかりしろ!どこをやられた!」
「……えーと、いやそうじゃなくて……」
「?」
「あんなに特訓した新必殺技が当たらなかったんだ。ボク、もう駄目。引退を
決意……」
どうも寝ぼけているらしい。大方、新必殺技で自爆したのだろう。ケインは
トリーシャを抱えた腕を離す。鈍い音がする。トリーシャの頭が床に当たった
らしい。
「いったー。ケインさんひどいよ。いきなり…」
「トリーシャ!」
ケインの声でトリーシャはやっと目を覚ましたらしい。
「……あ!ヴェルミィ!そうだ!さっきいきなり、あのアランって人が入ってきて
ヴェルミィをさらって行ったの!」
「ヘキサは!?」
「ヴェルミィを追っかけていった!」
「アルベルト!追うぞ!」
「わかった!」
ケインとアルベルトが窓から飛び出す。
「あー!ボクも!」
トリーシャも後を追った。
すっかり夕闇の落ちたエンフィールドの街。その 闇から強烈な悪意が漂ってくる
ようであった。
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