Chapter 4
第三部隊の詰所の真ん中にあるテーブル。その上で、30cmほどの少女は
にこにこと微笑んでいた。
「……うーん」
それとは対照的に、部屋にいる面々は深刻な顔をしている。ヘキサは事情を
説明した。
「確かに、腕と足にかなりキツく縛った跡があるな」
ケインが言う。
「うん。痛かったんじゃないかなあ。かわいそうに」
トリーシャが机に顎をついて、ヴェルミィに視線を向けた。
「だろー?きっと何か悪い奴につかまってたんだよ。そのアランとか言う
奴によ!アランをとっつかまえてヴェルミィを自由にしてやろうぜ!」
ヘキサがまくしたてる。
「しかしだな」
部屋の隅によりかかったアルベルトが口をはさむ。
「彼女、ヴェルミィがほんとに<自動人形>だったとしたら、所有権はあの
アランという男にある。正当な理由がない限り、ヴェルミィはあの男に
返すのが筋だろう」
そう、わざと冷たく言い放つと、アルベルトは宙に視線を逃がした。
「なっ……」
ヘキサの顔が瞬時に紅潮する。
「おまえの言う事はわかるぞヘキサ。でもな、彼女が本当に人形で、あの男が
創ったものだとしたら、それをどうしようが俺達に止める権利はないんだよ」
アルベルトがヘキサになるべく視線を向けないように言う。
「ケイン!」
ヘキサがケインに向かい、叫んだ。
「…アルベルトの言う事にも一理はあるな……人形だとしたら、依頼があったこと
でもあるし返却しないとな…」
ケインがつぶやく。
だあん!
机を、何者かが揺らす。
「!!」
ヴェルミィがびっくりしてちょっと浮き上がる。頬杖をついていたトリーシャが
後ろにひっくり返りそうになった。
「うわわわ」
アルベルトも、そしてケインも、机に視線を向ける。
ヘキサが机を思いっきり蹴っていた。
「……なんだよ、なんだよなんだよなんだよ!みんなでヴェルミィを、人形人形
人形人形って!そりゃあ、ひょっとしたら彼女は創られたもんかもしれねーよ!
だから、だからだから何だってんだよ!ヴェルミィは、笑って、泣いて、怒って、
そして俺を友達って言ってるんだ!命があるんだ!生きてるんだよ!」
ヘキサが、凄まじい剣幕で叫んでいた。いつものヘキサからは想像できない。
ケインも、アルベルトも、トリーシャも声を出せなかった。
「てめーらも、あいつらと一緒か?俺を使い捨てのマジックアイテムとしか
思ってなかった冒険者野郎と!遊び飽きたらゴミ扱いしやがったあの小娘と!
俺を囮にして、逃げおおせようとしやがった盗賊の頭領と!見損なったよ!
人間なんて口で仲間だ友達だなんて言っても結局そうなんだよ!いつもいつも
いつもいつも!確かてめーらが創ったもんかもしれねえ!けど、それに命が
あって、心があって、生きてるって事をいっぺんでも考えたことがあるのかよ!」
ヘキサの声が途切れ、静寂が部屋を覆った。ヘキサは肩で息を一度大きく息を
すると、
「ヴェルミィ!こんな薄情もんの所にゃいられねえ!俺がおまえを逃がす!」
ヴェルミィが驚き、戸惑い、そして満面に笑みを浮かべる。
「うんっ!」
「……待てよ。ヘキサ」
静かな声がする。ケインだった。
「……誰もまだヴェルミィをアランに引き渡すとは決めてないよ」
「!」
「……いいのか?ケイン」
アルベルトが聞く。声にはどことなく安堵の響きがある。
「ああ。どうも話がおかしいと思わないか?。俺は魔法には詳しくないんだが
今の技術であんな人形ができるもんか?トリーシャ」
「うん。できないことはないらしいんだけど、それができるの亡くなったイヴの
お父様くらいだったらしいわ。もっとも、イヴのお父様も、その技術を使って
何かを残した、って記録はないらしいんだけど」
「アランが嘘をついてるのか?」
アルベルトがケインを向く。
「可能性はあるな。どっかでさらってきた妖精かなんかを、高く売ろうとして
るか。どっちにしてもヴェルミィについては詳しい調査をしてからだ。とり
あえずショート科学研究所に行って……」
その時、ドアにノックの音が響く。
「アルベルトさん、ケインさん。フォスター隊長がお呼びです。団長室まで
おいでになって下さい」
「何だ?」
アルベルトは壁から体を離した。
「わかった。今行く」
ケインも席を立つ。二人はあたふたと部屋を出ていく。その出がけにケインが
ヘキサをちょっと見て、そしてまた背中を向けて、ぼそりと言う。
「……人間も、ちょっとはいいところ、あるだろ?」
「え」
ヘキサがはっとした表情になる。
「……うっせーよ。んなこた決まってんだろ」
ヘキサも小声でつぶやく。
「そうか…」
ケインはぱたり、とドアを閉めて出ていった。
団長室に向かう廊下を、ケインとアルベルトは並んで歩く。
「甘いと思うか?」
ケインがつぶやく。
「……そうだな。ま、しょうがないか」
アルベルトがちょっと笑いながら言った。
その頃、自警団の事務所を外からじっと眺めている、黒装束の男がいた。
「探し物を引き取りに行くか」
にやりと笑うと、男は事務所に近づいていく。その男の足が止まった。
事務所から誰か出てくる。何人かの男。その内の一人が敬礼をする。
「あれは、ノイバウテンの!」
北の町、ノイバウテン市の自警団のユニフォーム着た武官らしい男だった。
黒装束の男は表情を、蛇のように変えると
「……くそ、ここまで手を回してきやがったか……こうなったら強行突破と
いくか」
男は懐に手を入れると、黒く光る何かを取り出した。
がちゃり。
それは、拳銃だった!撃鉄の動きを確認すると男は、それを隠すように外套
を羽織り、ゆっくりと事務所に歩き始めた。
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