刻(とき)のどこかで
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Chapter 3

「ねえヘキサぁ。ヴェルミィとべるからいいよぉ」 「いいっていいって。」 ヘキサの背負ったリュックから声がする。ヴェルミィをなるべく人目にさらさ ないように移動するためであった。好奇の目、からではない。この街は平穏では あるのだが、時折とっぴょうしもないことが起きる。ヨーグルトの洪水だの喋る ゴミだの。だからヴェルミィがふよふよ飛んでいる程度ではほとんどの人の目を 引く事はない。 だが、ヴェルミィが捕縛されていた、ということは何者かの手を逃れて来た、 ということだ。<そいつ>がどこで目を光らせているのかわかったものではない からだ。ヘキサは注意深く、街を移動していく。 「あーーーーかわいー」 「わわわわ」 背中でヴェルミィが声を上げる。 「 」 淡いピンクの髪をポニーテールに結った猫耳少女、メロディが上機嫌で歌い ながら歩いてくる。ちなみに上の空白にはあんな歌やこんな歌が入るのだが 種々の事情で再現できない。読者諸氏に於いて任意に妄想されたい。 メロディは小走りにヘキサに近づいてきた。ヘキサはどうやってごまかすか 必死に思案する。 「ヘキサちゃーん。いまなんか声しなかったー?」 「あ、いやほら、俺だよ。メロディかわいいなぁって」 月並みであるが、とりあえず言い訳する。 「うん。メロディちゃんていうの?あたしヴェルミィ」 リュックから顔を出すヴェルミィがヘキサの思案を全て無駄にする。 「あわ、あわわわわわ」 「うみゃあ。かわいいですう。ヴェルミィちゃんですかぁ」 路上で響く嬌声に、道行く人が振り向いていく。ヘキサはパニックになりながら も必死にこの場を離れる算段をする。 「あーメロディ、ちょっと用があるんで、後でまた」 「うみゃあ、ご用ですかあ。それじゃあしょうがないです。またあとで」 「うん。メロディちゃんもおともだちに、なってくれる?」 「うみゃあ。おともだちですか。いいですよ」 「じゃ、じゃあそういことでなっ!」 「ばいばーい」 「ばいばーい」 無邪気に挨拶を交わす声を背に、ヘキサは先を急ぐ。まったく冷や汗もんであった。 しかし、その声を、人込みの外から見つめている視線があった。 「いたか……」 その視線の主である男は、まるで影のように人々の間を動き、ヘキサへと近づいて いく。男は懐に手を入れ、何かを取り出そうとする。 「!」 ヘキサに誰かが近づいてきた。 「ちっ!ここで騒ぎはまずいか……おや、あれはあの間抜けどもじゃないか」 男はくっくっというような笑い声をたて、 「……ふん。後であそこに行けばいい訳か。それならそれでいい」 男は、また影のように人波に消えた。


少し時間は溯る。街の外れから大通りに向かう3人。自警団第三部隊の面々、 ケイン、アルベルト、トリーシャであった。 「まったく、<自動人形>なんてほんとにあるのかなあ」 アルベルトが天を仰ぎながら言う。 「うん。妖精みたいな30cmくらいの女の子、って。言われてもねえ」 トリーシャも所在なさげにつぶやく。 「パティとかエルとか露骨にケーベツ、してたよなあ」 ケインが言う。 「ケーベツならまだいいよ。ボク、ディアーネに注射されそうになったんだよ。 熱があるんじゃない?とか言われて」 トリーシャが溜息混じりに言う。 「そりゃ災難だな。」 アルベルトがほとんど上の空で言った。 「うん。それで思わず、特訓中の技かけちゃったんだ。」 ディアーネも災難だぞ、ケインは言いかけたが言葉を飲み込んだ。次の実験体に されたらたまらなかったからである。 「うーん。こんな時にイヴさんがいてくれたらなあ」 困り果てた表情でトリーシャがつぶやいた。 第三部隊のもう一人の助っ人であるイヴ・ギャラガーは折悪しく、隣の町の図書館 に出かけていて留守であった。 彼女は、物故した世界有数の人形師の娘でもあった。彼女なら、あるいは <自動人形>についての知識があったかもしれない。しかし今はそんな事を言って もしょうがない。 「ともかく一度、本部に戻ろう」 先ほどの、アラン・スミシーと名乗った旅行者の依頼は<ショート研究所に納品 する予定の魔法駆動の自動人形>が、この街の中で行方不明になってしまい、 このままではペナルティをもらうので極秘で探してくれないか、というもの だった。それを受け、昼下がりから町中を探索しているのだが、それらしい情報は なかった。 「一度、情報を整理して……」 ケインが他の2人にいった時、 「 」 歌声が聞こえた。メロディであった。 「やあメロディ。ご機嫌だね」 「うんみゃあ。ケインちゃん。メロディごきげんだよ。さっきねえ、ヘキサちゃん のかわいいおともだちとおともだちになったのぉ」 「ヘキサの、友達?」 「うん。でもヘキサちゃんごようがあるって、自警団のほうに行ったよぉ」 「そうか。なんだろうな」 「ともかく戻ろうぜ」 アルベルトがうながす。 「そうだな。じゃあ、またねメロディ」 「うみゃあ。ケインちゃん、アルちゃん、トリーシャちゃん、まったねー」 メロディはまた 「 」 と歌の続きを歌いながら去っていった。 「メロディは気楽でいいよなあ。」 アルベルトが、また溜息交じりで言うと、 「あ、あれヘキサ」 トリーシャが人込みを指す。 「何だあいつ、あのリュック」 ケインがいぶかる。 「ともかく行ってみようぜ」 アルベルトが言う。 「そうだな。おーい、ヘキサ!」 3人は雑踏に小走りで向かった。 ちなみに、上の空白にもあんな歌やこんな歌が入るのだが、そのへんは 読者諸氏に於いて適当に判断してほしい。ジ○ン○ー○の歌とかだと色々 シャレにならぬかもしれないが。 という本編に関わりのないネタを話しているうちに、3人はヘキサに 追いついていた。 「お、ケイン!ちょっと話を聞いてくれ」 ヘキサが3人をみつけ、近寄ってきた。 「なんだヘキサ、その荷物……」 「にもつじゃないです。ヴェルミィです」 「え?」 「い?」 「は?」 3人がそれぞれの表情であっけに取られるとヘキサは、 「あは、あははははは。ここじゃなんだから事務所いこーぜ事務所」 「あ、ああ」 強引なヘキサに引かれるように3人は事務所へと向かう。 「……あん?」 「どうした?アルベルト」 「……いや……」 一瞬、アルベルトは強烈な殺気を感じ、後ろを振り向く。そこには、街の雑踏が あるだけだった。 「…まさかな」