光の絆
Page 4
Jump To 12445 Liner Close Home


4

戦闘空域に到達する。撃破されたらしい機体の残骸がそこここに散ら ばっていた。群青色の大型機がトラブルを起こしたらしく関節部から 煙を吹いて静止していた。 「・・・まずはお前からだ」 コクピットの少年がつぶやく。あの大型機とは何度か剣を交え、油断なら ない相手であることは知っている。排除できる時に排除するのが正しい 選択であると思えた。少年はバスターライフルの照準を、空域内の敵を全て 掃射する「全領域照準」、通称MAP(Marking・All・Point)モードへと切り 替えた。ライフルへのエネルギー充填が 始まる。 「死ぬのが・・・恐いのか?」 目の前の大型機の中では、パイロットが必死に生き延びる努力をしている。 これが「気」というものなのだろうか、モニターとターゲットスコープに 映し出された単なる光学映像にしかすぎない敵機の姿なのに、そこから 「生きたい」というパイロットの思いが伝わってくる。そう。少年は敵を 撃つたびに、この「思い」が、心の底にこびりつくのを感じていた。それは 死ぬことに恐怖できない自分への戒めでもあるかのようだった。 「・・・死ぬ、か。」 自分はどのように死ぬのか。少年は時々考えてみる。どこで、何のために。 しかし答えはでない。それはいつもこの宇宙空間よりも深い闇の底に沈んで いるかのようだ。 「・・エネルギーゲイン最大値・・バスターライフル発射」 トリガーに力をこめる。ターゲットの「悲鳴」が聞こえる。自分の生を 断たれることへの恐怖の思念が。これもいつものことだ。しかし、そこに 何かが割って入る ・・・・ヤラセナイ・・・・・ 「!」 それは、少年が死への引き金を引くのとほぼ同時だった。


「ガンダム01は、大口径火器のエネルギー充填にかかっています!充填 終了までの予測時間約5秒!」 「ゲシュペンスト!機体にトラブルが発生して動けません!脱出装置も作動 不可です!」 アーガマの艦橋でマヤが悲鳴に近い声で報告する。 「誰でもいい!グレースを助けるんだ!」 ブライトがキャプテンズシートから立ち上がり、絶叫する。 「シャイニングガンダム、ビルバイン、エヴァ零号機最大加速で向かって います!」 「・・・間に合わない・・・間に合い・・ません」 ミサトが震える声で誰に言うともなく言う。そこに新しい情報メッセージ が表示される。 「エヴァンゲリオン、ケーブル断線!」 「!」 ミサトが顔を上げる。 「・・・エヴァ零号機!機体側からケーブルを外しました!」 「レイ!?」 「エヴァ零号機!自律離脱を解除!」 「何ですって!?」 ミサトが思わず立ち上がる。 自律離脱の解除。それはイコールパイロットの生命保護のシステムを全て 捨てた、ということだ。それは 「レイ!!死ぬつもりなの!!?」 ミサトが思わず零号機への通信回路に叫んだ、その言葉がその行為の帰結を 示していた。 『・・・必要なら・・・』 通信回線にレイの、静かだが、確たる声が帰って来た。


そう・・死ぬことは・・・恐くはない・・・でも・・何のため? ここにいても、よいりゆう


綾波レイが向かっている空域に、ひとつの意志があった。それは他者に 「死」をもたらすことを自分自信に課した哀しい魂。それを感じ取った時、 レイはためらわず動力ケーブルの排除スイッチを押した。モニターのエネル ギー表示が内蔵電源の限界をカウントダウンし始めた。そんなことにかまわず、 レイはエヴァの空間戦用に装備されたバックパックブースターを全開にした。 そして機能の停止したゲシュペンストの前に立ちふさがる。刹那、ガンダム の構える大口径砲の砲門が白く輝いた!。 「A・Tフィールド全開!」 白い輝きは、強大なビームの奔流となり、エヴァ零号機とゲシュペンストを 包む。エヴァの展開する防御空間がビームを押し止める。しかし、半径150m を完全に焼き払えるほどのエネルギー量はA・Tフィールドの限界を超えて いた。エネルギー流が零号機とその後方にいたゲシュペンストを吹き飛ばした。 「くぅぅぅっ!」 「きゃああああ」 ビームエネルギーはフィールドによって半ば以上威力を減衰され、機体を蒸発 させるには至らなかった。それでも二機は激烈なダメージを受け、自らの 装甲の破片と共に、空間に浮かぶ「残骸」、と呼んだ方が早い代物に変貌して いた。 特にゲシュペンストの盾となる形になった零号機の被害は深刻だった。 四肢は全て吹き飛ばされ、頭部のモニター類も原形を止めていなかった。 そしてそれは搭乗員の運命について、最悪の事態を予見させ得るに十分な 姿だった。 「レイーーーーーッ!」 「ファースト!!!!!」 「綾波ッ!!!」 「レイちゃん!」 宇宙のそこここで悲痛な叫びが上がった。


少年の中に入り込んだ意志。その「魂」のかたちはあまりにも少年に似ていた。 捨てることをいとわない命、つくられた自分、しかし決定的にひとつだけ違って いたことがあった。それは ・・・ここにいても、よいりゆう・・・ ・・・まもるべきもの・・・ その、たった一つの言葉が、少年の心に刺さる。 「なん・・・だと・・・」 少年の心にほんのコンマ何秒か空白が生じる。静寂。しかしそれは機体に伝わる 強烈な震動でかき消される!光学モニターが一瞬にして全て白濁した。 「しまった!」


「俺のこの手が光って唸る!お前を倒せと輝き叫ぶ!」 ビームの光芒に紛れ、後方に回り込んでいたシャイニングガンダムが、その 奥義を炸裂させようとしていた!シャイニングの全身に装備された冷却ダクト が一斉に開放され、機体のシルエットをさながら東洋の鬼神へと変える。 「ひぃっさぁぁぁつ!」 シャイニングガンダムの右手が、まるで太陽を孕んだかのように光り輝く。 「シャァァァイニング・フィンガァァァァ!!!!!!」 鬼神の右腕が、堕天使の頭部を捉えた! 「・・・くっ!」 少年はシャイニングの腕を振りほどこうとする。しかし、機体が作動しない! 「何だと!?」 シャイニングの指先から放出されている電磁フィールドがウィングの機体に 干渉し、ウィングを金縛りの状態にしているのだ。ウィングの頭部の外板が ひしゃげ始めた。カメラアイのシールドが砕け、外形が歪み始める。 「仲間の仇!討たせてもらおぅかぁ!」 コクピットのドモン・カッシュの右腕が拳を握り締める。それに呼応し、 シャイニングガンダムの右腕がひときわ輝いた!次の瞬間、ウィングガンダム の頭部は完全に砕け散った! 「うぉぉぉぉ!」 反動でウィングは吹き飛ぶ。少年は雄たけびを上げ、ウィングの両肩に装備された マシンキャノンを掃射していた。 「まだ動けるのか!?」 回避運動を行うシャイニングのコクピットでドモンは驚きを隠せなかった。恐る べき耐久力のマシンと言ってよかった。次の瞬間には、頭部を失ってなお、 ウィングの右手が上がる。 「!」 ウィングのコクピットで少年がつぶやく。 「・・・損害・・・メインカメラ喪失・・・問題なし・・任務続行・・・」 バスターライフルが火を吹いた。 「うぉ!」 ドモンは反射的に回避する。間一髪、機体への直撃は避けられた。しかし、至近 を通過したビームの高熱がシャイニングのショルダーアーマーの一部を、バター のように溶かしていく。 「何てパワーだ!もう一度、シャイニングフィンガー・・いや、二度は当たらない か・・。どうする!ドモン」 油断なく身構えながらシャイニングのコクピットでドモンはつぶやく。その時、 シャイニングガンダムの脇を何かが猛烈なスピードで駆け抜けて行く。 「誰だ!うかつに近寄る・・・」 『・・・しませんよ・・』 「何だ?」 切れ切れの通信がシャイニングのコクピットに入る。 『もう・・許しませんよ・・・』 「グレースかっ!」 ゲシュペンストだった。両足は膝から下が失われ、背中の翼もない。 頭部のモニターもほとんどつぶれていた。それに、ほぼ、あと一撃分の エネルギーしか残してはいなかったけれども。


自分は死ぬのだ、と思った。あのガンダムの大型のビーム砲が白い輝きを 放ったとき。思わずつぶった瞼の裏に様々な顔が浮かんだ。・・・おとうさん ・・おかあさん・・・アスカさん・・・ブライト艦長・・ジェス・・・ ・・・綾波さん・・・綾波さん?・・・・何か言っているの?・・・ 『あなたは死なない・・・私が護るもの・・・』 「!?」 強烈なショックが次の瞬間、襲いかかってきた。そのまま、グレースの意識は 切れた。 「・・・ううーーん。まだ、寝かしてくださぁいい・・・」 目覚まし時計が鳴り響いている。朝、なのか・・・。違う。これは・・・。 ありとあらゆる警報メッセージがゲシュペンストのコクピットに溢れていた。 「生きて・・・るんですかぁ?」 そうだろう。死んでまでこんな頭痛と吐き気にみまわれたらたまったものではない。 生き残ったセンサーとカメラが精一杯外部の情報を伝達してきている。先ほどの 座標からは、かなり飛ばされているようだ。察するに先ほどのエネルギーの嵐に 巻き込まれてここまで運ばれてきたのだろう。やがてジャミングしていた通信が 回復し始める。 『・・・号・・・急げ・・・ロットの生死・・・明』 『レイ!返事して!レイ!』 ミサトの声だ。レイ・・・綾波さん?綾波さん!その時、始めてグレースは 光学モニター上に表示されている、ボロキレのような物体が綾波レイの搭乗機、 エヴァンゲリオン零号機の変わり果てた姿であることに気付いた。 「い・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁ!」 あなたは死なない・・・私が護るもの・・・ さっき聞いたような気がするレイの声。グレースはやっとすべてを理解した。 『シャイニングガンダム!ガンダム01と交戦中!』 戦闘の光芒が彼方に見える。グレースはスロットルを踏み込んだ。咳き込むよ うなエンジン音が響く。 「お願い!起きてください!」 再度、今度は蹴飛ばすようにスロットルを押しこむ。ゲシュペンストは息を 吹き返す。 「あたしたちの、綾波さんを・・こんな目に合わせて・・・許しません!」 グレースの頬に熱いものが止めど無く流れている。それを拭おうともせず、 グレースは飛んだ。


「グレース!無茶はよせっ!」 シャイニングガンダムのドモンがゲシュペンストを止めようとする。しかし、 シャイニングの空間戦装備ではゲシュペンストに追いつくことはできなかった。 背面のブースターが最大出力をたたき出していた。ゲシュペンストは機体の 部品を撒き散らしながらも、突進をやめない。 「何!」 突然出現した敵に、ウィングはマシンキャノンを連射する。申し訳程度にぶら 下がっていた各部の装甲が吹き飛ぶ。しかし、怒りに燃えたゲシュペンスト は突進をやめない。ゲシュペンストの右手に光の剣が発生した。ウィングは 再度バスターを構える。しかし、間に合わなかった。 「やぁぁぁぁぁ!」 ゲシュペンストのプラズマカッターが一閃した。ウィングはバスターライフル を持った右腕を肩口から切り落とされた。 「ここまでか!」 ウィングの機体のモニターが全て赤くなった。もはや戦闘不能であった。 残った左腕でバスターライフルを回収すると、ウィングガンダムは再び 鳥型に変形し、赤黒いオイルと煙を撒き散らしながら高速で戦闘空域を離脱 していった。 「待ちなさい!」 なおも追跡しようとするグレース。しかし、ゲシュペンストはパワーを 使いきり、全身の関節から小さな炎を吹いて機能を停止した。エンジン音が 力尽きたように急速に消えていった。 「もういい!決着はいずれ付ければいい!」 シャイニングガンダムが慣性で流されようとするゲシュペンストを、抱き かかえる。 「・・・でも、・・でもぉ」 画像通信が死んでいるためゲシュペンストのコクピットをうかがい知ることは できない。しかしその声からグレースが泣きじゃくっているのは明らかだった。 『エヴァ零号機!回収完了!パイロットは・・・綾波レイは・・・無事です! 命に別状はありません!』 母艦からの通信が戦場を走った。真空のはずの空間が暖かい空気に満ちた ような気がした。 「・・・だからファーストなんて嫌いなのよ・・」 アーガマの甲板に立て膝の状態で駐機しているエヴァンゲリオン弍号機の コクピットの中、アスカは膝を抱え、顔をうずめてつぶやいていた。誰にも 表情を見られたくないかのように。


少年は考えていた。さっきの「魂」のことを。そして闇の中にいつも沈んで いた、あの「答え」を。何の、ために。誰の、ために。少年の脳裏にひとつの 光が浮かぶ。気品と優しさと、そして何よりも、強い心を持った一人の少女を。 「リリーナ・ピースクラフト・・・」 俺もいつか、あの「魂」のようになれるのだろうか。少年は問う。その答えは、 自分で見つけるしかない。傷つきながら漆黒の闇を駆け抜ける、白い巨鳥。 しかし、その輝く機体には、以前の凶凶しさは消えている。そして、この姿が 人々を希望に導く光になる日は遠くないように思われた。


ここにいても、よいりゆう。 みんなが、泣いている。どうして?何が悲しいの? ・・あたしのために・・・泣いているの? あのひとと同じ。あたしのために泣いてくれるの? ここにいても、よいりゆう そう。そうなのね。 あたしはここにいてもいいのね。 全てがブラックアウトしたコクピットの中、少女は赤い瞳をゆっくりと 開き、そしてまた、ゆっくりと閉じた。