光の絆
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周回軌道の片隅、隕石やら壊れて廃棄された人工衛星やらのゴミが集まった一角。 そこに一つの「影」が潜んでいた。鳥を思わせるシルエットの小型の宇宙艇の ようだった。コクピットには、精悍な顔付きと体つきをした、年の頃は15歳 くらいの少年がいた。 彼は、ヘッドホンを耳に当て、何やら聞いている。 「・・・ロンド・ベル、位置確認。任務開始」 冷めた声で少年は言った。そして精密機械のようにスイッチ類を操作する。 その鳥は羽根の部分からエネルギーを放出すると一気にゴミから躍り出る。 全身を白で覆われたその機体は、美しいが、どこか凶凶しくもあった。 それは、万物に等しく死をもたらす伝説の怪鳥の姿を思わせた。怪鳥は、 獲物をその爪にかけるべく、白い航跡を引きながら宇宙の闇を駆け抜けて 行った。


ここにいても、よいりゆう。 あたしには何もない。記憶も。心も。 あれに乗ることだけを求められ、あれに乗ることだけが、 あたしのいる、りゆう。 本当に? 仲間、ナカマ、友達、トモダチ。 暖かい、手。 仲間、友達、仲間、友達、ここにいるりゆう。 本当ニ?ホントウニ? 部屋にアラームが鳴り響く。ベッドにぼんやりと横たわっていた少女は赤い瞳を ゆっくりと開き、起き上がる。掌を、ちょっと見る。


「前方の空間に未確認の機影!」 「パターン照合。反応色ヴァーミリオン。ヘビーメタル部隊です!」 アーガマの艦橋に緊張が走った。ロンド・ベル部隊司令にしてアーガマ艦長の ブライト・ノア大佐が指示する。 「総員戦闘配置!」 アラームが鳴り響いた。ブライト大佐の傍らに座る作戦参謀格の葛木ミサト 大尉が、オペレーターの伊吹マヤ少尉にてきぱきと指示をする。ミサトと マヤはエヴァと共にアーガマに派遣されてきた女性ブリッジ要員だ。特殊な モニタリングを必要とするエヴァンゲリオンの作戦行動を指揮するためには どうしても必要な人材であった。しかし、彼女たちを含むネルフのオペレーター 達は、これまで専任のオペレーターがいなかったロンド・ベルには欠かせ ない要員となっていた。 「機種の確認、急いで!」 「出てます!グライアタイプ8機、グルーンタイプ8機、アトールタイプ5機、 アシュラテンプル1機!」 マヤが凛とした声で叫ぶ。 「モビルスーツ部隊は分が悪いな」 DC戦争、第3次大戦を通じてのエースであり、ロンド・ベルの戦闘指 揮官格であるアムロ・レイ少佐がブライトに言う。 「ああ。せいぜい露払いにしかならないな」 ブライトは考え込む時の癖であごに手を当てる。 「Bシフトで行きましょう!」 葛木大尉がブライトに言う。 「そうだな。よし!シフトB担当のパイロット、各機発進準備!準備のできた ものから発進!」 「じゃあ、行ってくる」 アムロが艦橋を出て行く。 「葛木大尉、どう思う?」 「機種構成、飛来方向から見て何らかの作戦行動中とは考えにくいですね。 移動中、あるいは強行偵察中にたまたま、当たった、というところでしょう」 葛木大尉はヘアバンドでまとめていた髪を解いた。ちょっと癖のある セミロングの髪がばさっ、と肩にかかる。彼女なりの臨戦態勢だ。 「たまたま、か」 「ゲッタードラゴン、ダンクーガ、リ・ガズィ、エルガイム、ビルバイン各機 発進完了!続いてシャイニングガンダム、カルバリーテンプル、ディザード、 エヴァ零号機、ゲシュペンスト、発進します!」 オペレーターの声を聞きながらブライトは一人ごちた。 「たまたま、がやけに多い気がするな。今回は」 「前衛部隊が敵と接触します!」 その疑問を断ち切るように、後ろからオペレーターが声をかけた。 「よし!アーガマは第三戦闘速度で前進!グラン・ガラン、ゴラオンは この座標で待機!必要に応じて各艦の判断で援護を行うこと!」 アーガマのエンジンナセルが白熱し青白い炎を吹き出す。そして、ゆっくりと 敵の待つ空域へと動き始めた。 アーガマの周囲に展開する機動兵器群。その中に、サファイアブルーの細身の 機体が混じっている。綾波レイの搭乗するエヴァンゲリオン零号機であった。 3機あるエヴァの中では試作機という位置づけで、そのため全体が整理されて いない印象を与える。 「?」 『綾波さぁん。』 通信が入る。零号機の右脇に同じくらいのサイズの機体が平行して飛んでいる。 V字型の角と巨大な翼を備えたバックパックブースターが印象的な群青色の機体だ。 ゲシュペンスト。テスラ・ライヒ研究所で建造中の巨大機動兵器のシステムテスト 用に建造された機体である。パイロットは、グレース・ウリジンである。 『終わったら、お話しましょうねっ』 通信はグレースからであった。 「・・・必要なら・・・」 レイは答える。 『あは、それじゃあ、また後で』 ゲシュペンストは加速した。前衛として、敵と接触するためである。本来局地戦用の 陸戦兵器であるエヴァンゲリオンのような機体は、空間戦闘に対応するために気密 シールドと宇宙飛行士の船外活動ユニットを巨大化させたようなブースターパックを 追加装備している。だがそれでも行動範囲には限界があり、いきおい、前衛に使用 される機体は決まってくる。アスカなどはそれが不満らしいのだが。 常にボロボロになって戻ってくるゲシュペンストやダンクーガといった前衛専任の 機体を見てレイはいつも思っていた。 ・・どうしてあの人たちは戦っているのだろう。 私と違って戦う以外に、いろんな事ができるはずなのに。 『前衛が敵と接触!』 レイはターゲットスコープを開いた。今は、ともかく戦う時なのだ。


「はぁぁぁぁ!」 V字型のアンテナと1対のモニターカメラを備えた、俗に言うガンダムタイプ の機体が野牛のような角を持ったヘビーメタル、グルーンに突進する。グルーン は槍状の武器に装備されたエネルギー弾を打ち出すが、そのガンダムはそれを いとも簡単に回避し肉薄する。 「ひぃっ!」 グルーンのパイロットが一瞬ひるむ。その機を逃さず、<ガンダム>はその 手刀を敵の急所にめり込ませる。 「でぇぇい!」 その<ガンダム>の手刀はグルーンの機体を突き抜けた。グルーンは一瞬に して全ての機能を停止し、空間に漂う単なる鉄屑と化した。周囲を取り囲んで いた同型機は武器を構えたまま動けない。 「どうした!このシャイニングガンダムとキング・オブ・ハート、ドモン・ カッシュに恐れをなしたか!」 シャイニングガンダム、と呼ばれるその機体は厳密に言うと兵器ではない。 モビルスーツでの格闘技用に開発された、いわばスポーツ用の機体であった。 しかし、極限まで操縦者への追従性を追求したことにより、パイロットの 体術がそのままダイレクトに戦闘力につながるマシンとなっていた。 現在のパイロットはコロニー格闘術の最高位である「キング・オブ・ハート」 の称号を持つドモン・カッシュ。接近戦ではほぼ無敵のマシンであった。 意を決したようにグルーンが一機、後ろから切りかかる。 「見切った!」 シャイニングガンダムはそのグルーンの頭部をわしづかみにすると 一気に握り潰した。 別の空域では鮮やかな赤と白に彩られた中世の甲冑と昆虫を組み合わせたような 機体が敵前衛の小型ヘビーメタル部隊を翻弄していた。オーラバトラー、ビルバイン である。オーラ力という人間の生体エネルギーで駆動するマシンであり、その 運動性は群を抜いていた。パイロットのショウ・ザマの気合いが一閃した。一つ 目を持った小型ヘビーメタル、グライア数機をほぼ一瞬にして切り伏せる。 両断されたグライアの背後から小さなポッドが射出された。機体のシステムが パイロットの保護のため、コクピットブロックを強制排除したのだ。 「ひとつ・・・ふたつ・・」 ショウはポッドの数を数える。  この時代の機動兵器群はダメージコントロールとパイロット保護機構が 著しく発達しているのが特徴のひとつであった。一般に機動兵器は高価であり、 おいそれと損耗させるわけにはいかない。それにも増してパイロットは 貴重な存在であった。特に下手をすると大陸をひとつ吹きとばすくらいのパワー を有するハードウェア、「スーパーロボット」を制御するためには特殊な素養 が必要なことが多く、そういった人材はごく限られていた。この2点から機体 及びパイロットの保護は機動兵器設計のの最重要の課題であった。 具体的には、この時代の兵器には母艦あるいは根拠地のメインシステムと 連動した機体ダメージの数値化プログラムが組み込まれていた。これにより 各機体に設定された安全マージンを見込んだ命中弾に対する耐久力(ヒット ポイントと呼ばれる)を越えるダメージが蓄積された場合、機体は自律的に 戦闘空域を離脱、帰投するシステムになっていた。また、このプログラムは ダメージ予測の機能も有しており、自機の装甲、運動性能と現在対峙している 敵の、各種火器の破壊力の想定値(これは母艦のデータベースから供給 される)から次の一撃で機体が破壊されると予測された場合、パイロットの 乗ったコクピット部分のみを自動で射出することも可能であった。 このシステムは母艦と各機が双方向でリンクしており、母艦側でも常に 所属機のステータスをモニタリングすることが可能で、戦術指揮システムの 大きな要となっていた。 建造された技術体系が異なっていても、ほとんどの機動兵器に類似した システムが装備されており(戦争におけるコスト原理は普遍的なものである らしい)、ロンド・ベルのような混成部隊であっても、各機体とのインター フェースモジュールさえ母艦側にインストールできれば、一律運用が可能で あるのだ。 これらのシステムによって、DC、第三次、そして今次の動乱でのパイロット の死亡率は極めて低かった。 しかし、これはあくまで「低い」だけでけしてゼロではないのだ。 「やっつ・・・。一つ足りない」 ショウがつぶやく。破壊された機体の数と脱出ポッドの数が合わないのだ。 エンジンにまで損傷が及んだグライアが次々と爆発四散する。光芒がビルバイン を一瞬、シルエットにする。 「また一人・・・殺してしまったか・・・」 コンピュータシステムの損傷、装置のトラブル、クリティカルヒットで コクピットを一撃で打ち抜かれた場合・・・。このような場合、搭乗者はほぼ 確実に機体と運命を共にすることになる。どのような完璧なシステムが備わっ ていても、死がつきまとう。そう。ここは戦場なのだ。 「ショウが悪いんじゃない。戦争をしかけたあいつらが悪いんだ!」 ショウの肩の上から声がする。身の丈が20cmほとの小さな少女。人形では ない。その証拠にかすかな温もりが、ショウの頬に伝わってくる。 「そうだな・・ありがとうチャム」 チャム・ファウ。バイストンウェルに住む、フェラリオと呼ばれる妖精のような 種族の少女だった。戦場でショウ・ザマが正気を保っていられのも、この小さな パートナーのおかげかもしれなかった。 『ショウ!ゲッターが座標5−2−4で狙い撃ちされてるわ!援護に』 ルー・ルカが回線で連絡を入れてくる。 「わかった。後は頼んだぞ!」 残敵の掃討をルー・ルカ率いるMS部隊に任せ、ビルバインは全速で敵編隊の奥 へと切り込んで行く。 宇宙空間は、破壊がもたらす美麗な火球に染まって行った。


前方に儚い線香花火のように、戦闘の明かりが見える。凶鳥はその明かりを 目指し、飛び続けた。あの光の中に、幾人かの生死があるのか。暗いコクピットの 中で少年は思った。しかし、死に対する恐怖はない。少年は、幼いころから 戦士として、テロリストとしての訓練を受けていた。死ぬことは彼にとっては 生の延長線上にある結果のひとつでしかない。 ・・・・そう。だから、お前を殺す。お前らを・・・。 少年はスイッチをいくつか操作する。ガクン、とコクピットに軽い衝撃が走った。 漆黒の闇の中、鳥は姿を変えていく。パーツの配置が変わり、手、足、そして 頭部が露出する。システムの組み替えが終了すると、そこにはさっきまでの白い 怪鳥の姿はなかった。替わりに3対の翼を持つ堕天使が降臨していた。その姿の 通り、ウィングガンダム、と呼ばれる地球人の作り上げた最高の破壊マシンの ひとつであった。