光の絆
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地球圏は嵐の予感に震えていた。 突如襲来した異星人ポセイダル軍と<ゲスト>。悪鬼の如く蘇ったテロリスト 集団<ディバイン・クルセイダーズ>。そして異世界バイストンウェルから 放逐されたドレイク軍。地球圏の制圧を目論む者たちが、まるで何かに導かれる ように次々と出現し、平和を脅かしていた。 これに対抗すべき地球連邦軍であったが、時既に、この機に乗じ主権を己の 手中に握らんとする梟雄どもの巣窟となりはてていた。しかし、その連邦軍の 中で唯一、人々の手に平和を取り戻さんと日夜闘い続けている一団があった。 地球連邦軍独立戦闘部隊、<ロンド・ベル>であった。 小規模な部隊ではあったが百戦錬磨の精鋭パイロットと地球圏最強の機動兵器群 を有する、正に地球の守り神と言っていい存在であった。 彼らは今、地球の衛星軌道上にあった。不穏な動きを見せている<コロニー連合> に対応するためであった。旗艦の旧式戦艦「アーガマ」を中心にバイストンウェル の協力者、シーラ・ラパーナ王女のオーラバトルシップ「グラン・ガラン」 、同じくバイストンウェルのエレ・ハンム王女率いる「ゴラオン」の3隻は地球光に 船体をきらめかせながら宇宙を進んでいた。 最前線にあるこの部隊は常に臨戦態勢である、と言えた。その緊迫した艦内の 一角では精鋭達がたむろし、何かを熱く語っていた。 「そん時のブライト艦長の顔ったらーーー」 「アスカさん、それはいいすぎですよぉーーー」 「あらぁ、グレースぅヤケに艦長の肩もつじゃなーい。ひょっとしてタイプー?」 「えええーー、艦長、奥様いらっしゃるんでしょぉ?それじゃあ<しつらくえん> じゃあ ないですかぁ」 「なぁにー?しつらくえん、って。地球じゃそーゆーことってそーゆーの」 「い、いや別にそーゆーわけじゃないんだけどね。グレースも変な事にくわしいのねぇ」 「えへ、ほめられちゃいましたぁー」 「ほめてない、ほめてない」 艦内食堂の一角で嬌声を上げているのは、惣流・アスカ・ラングレー、 グレース・ウリジン、ファンネリア・アム、それにルー・ルカの4人であった。 「ほんっと、グレースって変よねぇ」 金髪の「しゃべらなきゃ美少女」、アスカが言う。彼女は特務機関ネルフから 派遣された人造人間エヴァンゲリオンのパイロットであった。 「ええー、あたしはそんなつもりないんですけどぉ」 グレースと呼ばれた少女が本当に「心外」という表情で答える。くるっとカール した髪に、ちょっとタレ目気味の目、そして独特の口調が、19歳という 年齢よりも彼女を幼くみせていた。彼女はアメリカ、テスラ・ライヒ研究所から スーパーロボットの試作機、ゲシュペンストと共に赴任し、そのままいついて しまったパイロットだ。 「 いやあ、じゅーぶん変だわ。他の星のあたしがいうのも何だけど」 「ええーーー」 黒髪にバンダナを巻いたアムがうんうんとうなづきながら言った。彼女は地球人 ではない。現在地球と交戦中のポセイダル軍の母星、ペンタゴナの住人で、 ポセイダルの無法な地球侵略を阻止し、ひいてはポセイダルの独裁を打ち砕くべく ・・、と言っているのは彼女の同行者であるダバ・マイロードで、アムはどっちか とうとダバの追っかけに近い。彼女達の星では自動車程度のレベルであるという 機動兵器、ヘビーメタルを操縦する。 「ルーさーん。みんなひどいですぅ」 「うーん」 ルーと呼ばれた女性はどうフォローしていいか思案してる。長いさらっとした髪と 意志の強そうな瞳の女性だ。彼女はこの4人の中では唯一、正規の連邦軍のパイ ロットだ。モビルスーツと呼ばれる小型軽量の機動兵器のパイロットで、ほとんど の機種を乗りこなす。現在はやはり同じ連邦の女性士官のエマと組んでスーパー ガンダムに乗ることが多い。 この出自も人種すらもバラバラのパイロットたちが、打ち解け、笑い合える。 このフランクな空気がロンド・ベルの最大の美点であり、力の源のひとつで あるのだ。 「あれ?」 ルーがふと横を向いた。さっきまで空いていたテーブルに、ひとり、ぽつんと 座って、レーションを黙々と食べている少女がいた。無造作に切り揃えた白に 近い淡い銀色の髪、赤味を帯びた瞳。顔立ちは整っており、素直に美少女、と いうことができる。しかしその容貌には、何かが欠けていた。 「ファースト?」 アスカが声をかける。少女はちらり、とアスカを見ると、また食事に戻った。 「綾波さん・・・でしたよねえ」 ルーが話し掛けた。 「・・・そうです。綾波レイです・・・」 抑揚のない、まるで機械のような声。その声の妙な冷たさに、今までの嬌声が 一瞬、止まる。 綾波レイ。アスカと同じくネルフからエヴァンゲリオンと共に派遣された パイロットだ。アスカが彼女をファースト、と呼ぶのは、彼女が最初に 見出されたエヴァンゲリオン操縦の適格者、<ファーストチルドレン>で あるからだ。 彼女は配属されて1ヶ月近く経った今でも他のクルーとはほとんど話を せず、ひとり、ポツンとしていることが多かった。 「えっと、こっち来て、お話しませんかぁ?綾波さん」 グレースが立ち上がり、綾波のテーブルの前まで行く。 「今、食事中だから・・・」 レイはグレースの方を振り向こうともしない。 「・・あは、あはは、そうですよね」 グレースが困ったような声で笑った。 「無駄無駄。ファーストは碇司令に言われた事以外はやらないんだから。 司令からは、あたしたちと仲良くしなさい、って指示が出てないんでしょ」 アスカが両腕を頭の後ろで組んで、横目でレイを見る。善意がこもっている、 とはお世辞にも言えない目で。 「碇さん、って誰ですか?」 グレースがレイに聞いた。 「・・碇ゲンドウ司令。特務機関ネルフ極東支部の最高司令官。私たちは 司令の命令で派遣され、司令の命令でブライト大佐の指示に従っています・・・」 空間に氷が貼り付いたような緊張が走った。 「・・じゃあ、司令の命令がなかったら?」 アムが、かすかに何かを瞳の奥に燃やして聞く。 「・・・ここにいる理由はありません・・・」 凍った空気に、さらに刺が生えたような感覚をレイ以外の全員が感じた。 レイは食事を終えたらしく、食器を持って立ち上がろうとする。 「あんたねえ!ファースト!」 アスカがテーブルを叩いて立ち上がった。 「・・・なあに」 「ここにいる皆が、宇宙人のアムまでが地球の平和のために戦おう、って 言ってる時にあんたは何よっ!碇司令!碇司令!碇司令!司令が、死ね、 って言ったら死ぬの!?」 レイはアスカに向き直り、正面からアスカを見据えるとポツリ、と言う。 「・・・命令なら、死ぬわ」 時が、一瞬止まる。その時を動かしたのは、アスカだった 「この・・・・!」 アスカの平手がレイに向かって飛ぶ。アムとルーは空気と共に動けなく なっていた。 ぴしぃっ!鋭い音が響いた。続いて声がする。 「いたいですぅ」 「あ、あんた」 アスカが、頓狂な声を上げる。 「!・・・」 レイの瞳が一瞬だが見開かれた。レイを打とうとして放った平手が 打ったのはグレースだった。グレースが瞬間、レイの前に飛び出し、 レイをかばったのだ。 「アスカさん、本気でぶつんですものーー」 「・・そ、そりゃ、あんたじゃなくてファーストを、あーもう!やって らんないわよっ!」 アスカは自分の行動の結果に戸惑ったあげく、どうしていいかわから なくなったらしく、そこらの椅子に八つ当たりをして出ていってしまった。 「・・・どうして・・・」 かすかだが、感情の揺れがある声でレイがグレースに聞いた。 「・・だって、仲間じゃないですかぁ。仲間同士での喧嘩はよくない ですよぉ」 「・・仲間・・・」 グレースはレイの手を握る。レイの手に、ほのかな暖かみが伝わる。レイは はっとした。 「そうですよぉ。レイさんが何で戦ってるかは知りませんけどぉ、 ここにいる限りは私たちの仲間です。お友達です。お友達が危なくなったら 助けるのは当たり前です」 グレースが頬をさすりながら、でもにっこりと笑って言う。 「・・・そのために自分がどうなっても?」 「はい!」 グレースは何のためらいもなく言う。レイは一瞬グレースから視線を外すと、 手をそっと放し、そのまま背を向けた。そして2、3歩歩くと背を向けたまま 小声で 「・・・・ありがとう・・・」 と言い、食堂から出ていった。ようやく空間の呪縛から開放されたアムと ルーがグレースに駆け寄る。 「あの娘、今、ありがとう、って」 ルーが言う。 「はい!」 いつになく嬉しそうな表情でグレースが言った。