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記事No.[ 4519 ]

タイトル:北へ。SS

作成日:2007年03月18日

カテゴリ:[Kita-he]

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SNOWFLAKEさんの新作原田明理さんイラストがあまりにも素晴らしかったので、ついうっかりテキストをつけてしまいました。
mixiの日記に書いたもんに若干加筆してあります。まあ、我々がギャルゲーをクリアしてる裏ではこんなドラマがきっとあるんだよ、ということで。

into the sunset


「原田さん、まだいたんだ」
「あっ……はいっ!」
オレンジ色の夕焼けに満たされた教室の窓際で、クラスメイトの彼女が僕のほうを向いた。
そそくさと読んでた何かを後ろ手に隠しながら。
「今日はバイトじゃないの?」
「あ、はい。進路の面談があったので」
「そっか。原田さんは……就職だっけ?」
「いえ…とりあえず専門学校に行こうかと思ってます。あ、進学するんですよね」
「うん。近場の大学だけどね」
「すごいなあ。あたしなんか絶対ムリですよ」
夕陽の中で彼女はほほえむ。
「そっかぁ……大学生かぁ……あたしもなりたかったなあ」
彼女は僕から視線をちょっとだけ外す。別の誰かを見るように。
そしてその外れた視線は僕の中のささやかな勇気を呼び起こす。

確かめたいことがあった。どうしても。

「あ、そういえば」
「はい?」
彼女の瞳が、僕に向く。
「……聞いたんだけど」
僕は心臓の鼓動をさとられないように、彼女に尋ねる。
ちょっと前に聞いた噂を。

「原田さん……東京、行くんだって?」
「え……?」
そんなに長くはない時間だけ、瞳が見開かれる。
そしてすぐに、またほほえむ。
「はい……学校出たら、そうしたいと思ってます」
「それは……やっぱり噂どおり?」
「なんですか?」
きょとんとする彼女に、勇気の最後のひとかけらとともに、僕は問い掛けた。

「そのう……遠距離恋愛の……彼氏が東京にいるって……」

「!」
彼女はまた目を見開く。そして今度はまるでビデオを一時停止したみたいに固まる。
「ええええええ、えっと、えっと、えーっと、そ、そんなことないですよ」
彼女はコマ送りのようにうつむき、次に顔を上げると満面の笑みで僕に答えてくれた。
それは彼女がほんとのことを誤魔化す時のくせだった。

そう。
僕が3年間ずっと見つめつづけていた原田明理は、そんな女の子だった。

「……そっか」
僕もほほえみを返した、つもりだ。正直どんな表情だったのか自信はない。
沈みかけた太陽の落とす影が、隠していてくれたらいいな。
そんな風に思った。

数瞬の沈黙。
何かの宣託のように、部活時間の終了を告げるチャイムが響く。
「あ、もうこんな時間だ、じゃ、あたし帰りますね」
「あ、それじゃ。また明日」
「はいっ」
原田さんはさっき隠した、誰かから、たぶん「誰かさん」からの手紙を
急いで鞄にしまい込む。
そしてちょこん、とおじぎをして教室を出て行った。
教室には夕焼けと僕が残った。

少しの時間立ち尽くした僕は、彼女がさっきまでいた窓辺に立ってみた。
とりあえず、このおんなじ夕空の下にいるはずの「誰かさん」に
「バカヤロー」
と小声で言ってみた。同時に校庭に原田さんが姿を見せた。
僕は慌てて口に手を当てる。

真赤な光が作り出す長い影といっしょに、彼女は夕陽の落ちるほうに歩き去っていく。

僕はその小さな人影にそっと語りかける。

原田さん……僕は君のこと……ずっと

ずっと言いたかったことば。
言わなければいけなかったことば。

そして

もう永遠に言えなくなってしまったことば。

ことばは、彼女の姿と一緒に夕闇へと溶けていった。

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