だ☆めーづ
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記事No.[ 3061 ]

タイトル:原田明理さんお誕生日おめでとうございます

作成日:2005年02月23日

カテゴリ:[Kita-he]

というわけで、恒例、にしちゃうと後が大変そうですが、お誕生日記念即席SSっす。
よろしければどぞー。

Air warmer =Akari=


外に出る。
息を吐く。
白い。

この季節、この街では当たり前の光景だ。でも、今日はその夕闇に浮かぶ白いかたまりが、ことのほか大きく思えた。
「あーあ」
バイト先からの帰り道、原田明理は大きな溜息に混じった小さな声が冷えた大気の中に流れていくのを、止めることができなかった。

別にたいしたことではない。アルバイトでのちょっとした失敗。
特に誰かに大きな迷惑をかけたわけでもないし、みんなも笑って許してくれた。

「でも、なあ」



今日みたいな特別な日にまで、自分は何をやってるんだろう。そう思うと、やっぱり溜息が出てしまう。

今日は明理の誕生日だった。次の誕生日には名実ともに「大人」と言われる日がくる。そんな日に自分はなんだか相変わらずだ。
そう思うと、すきま風みたいな何かが自分のどこかに吹き込んでくる。

そんなわけで、原田明理はいつもより少しだけ小さく肩をすぼめて家路を急ぐ。
こんな時、側にいてほしいと思う。遠い街にいるあの人に。きっと、すぼめたこの肩を優しく包んでくれるだろうから。

「…」

ひときわ強く風が吹いた。明理はまたちょっと肩をすぼめて家路を急いだ。


「ただいまあ」
玄関の鍵を開け、自分のほかには誰も住んでいない家に入る。
そして誰に言うでもなく声をかけると天井から下がっている紐を引いて部屋に光を灯す。
冬の空気が満ちた空間のしじまに、時計の針の音だけがかすかに響く。

明理は両親の仏前に線香を上げるとファンヒーターのスイッチを入れた。
「?」
ヒーターが電子音を発している。
「あ、石油」
そういえば今朝方切れていたのを忘れていた。
「はあ」
今日はとことん間の悪い日のようだ。また、息が大きく外に漏れていく。その息と入れ替わるように、内と外、両方から冷気が入り込んでくる。

そんな風にしてたって、暖房器具が自分で給油に行ってくれるわけでもない。明理は気を取り直してファンヒーターから石油タンクを抜き出そうとして手をかける、と同時に玄関の呼び鈴が鳴った。続いて声がする。宅配便のようだ。

「はーい」
取り直した気が抜けていくのを感じつつ、明理はタンクをいったん元に戻し、応対に出た。

「東京からです」
「え?」
手提げ袋に入った小ぶりの荷物を手渡しながら配達員の若者が言う。東京にいる知り合い、といえばひとりしかいないはずだ。明理は印鑑を押すのももどかしく荷物を受け取る。

名前しか聞いたことのない東京の店の袋。その中にはだいじそうに包まれた小箱がひとつ。箱を開けると、そこには一本のマフラー、そして

明理ちゃん、お誕生日おめでとう。
まだまだ寒いけど、お互いにがんばろうね。

そう書かれた手書のカード。
そういえばこないだ会った時に言ってたっけ。プレゼント贈ってくれる、って。

明理はマフラーを手にとり、しばらく見つめる。
そして、そっと頬に当ててみる。
冷気がすうっと吸い出され、代わりにぬくもりが染み込んできた。

「……」
明理は溜息とは別の大きな呼吸をする。そして目頭をちょっとだけ指でさする。
その指先はかすかに濡れていた。

へくちっ!

その雫に誘われたわけではないだろうが、明理は小さくクシャミをする。
そういえばまだ暖房入れてなかったんだっけ。明理はマフラーをいったん置くとファンヒーターに石油を入れようと立ち上がる。
その時、体のどこかがプレゼントが入っていた紙袋に触れた。袋がぱたん、と倒れる。
「あれ?」
倒れた勢いで何かが袋の中から顔を出す。開けたときは夢中で気が付かなかったのだけれど、何か小さな布製品が底に入っていたようだった。
明理はそれを手に取る。

それは、手袋だった。片方だけの。
大きさからすると男物だろう。黒い毛糸。手編みではなくスーパーにでも売っていそうな機械編みの品だった。

袋に入っていたのだから、「送り主」のものなのだろう。それにしてもどうして。
そう思った瞬間、外出用のポシェットが音楽を奏でる。

明理はいそいそと中から電話を取り出し、通話ボタンを押した。
「はい。原田です……あ、はいっ!」
明理に笑顔が灯った。
「プレゼント、ありがとうございました…いえ、こちらはまだまだ寒いですから…ありがたく使わせていただきます…」
電話の向こうから聞こえる言葉、こちらから応える言葉。ひとつひとつが暖かかった。そんな行ったり来たりが、一段落する。

「ところで、あのう…」
先ほど見つけた予想外の贈り物のことを明理はおずおずと聞いてみる。




「…うふふふふ…ごめんなさい。あなたでもそんな失敗すること、あるんだなあと思って」
プレゼントの買物をした時に、何かの都合で手袋を外し、袋に入れたらしい。
そして、発送しよう、という段でなぜか袋から片方だけを取り出してしまったんだそうだ。そして送った後に片方しかないのに気付いた、ということだった。
「あー、そうやってあたしのせいにするんですかー?ひどいですよう」
明理の喜ぶ顔を想像していたから、などと本気とも照れ隠しともつかない言い訳。見えないけれど、あの笑顔がそこにあるようだ。

「…で、これどうします?…でも、片方だけだと困るんじゃ…」





「…!はいっ!わかりました!じゃあ待ってますから!」

「うふふ…へ、へくちっ!あ、何でもありません…いえ風邪じゃなくて、ちょっと寒いだけですよ」



「…はい。わかりました。気をつけます…それじゃ、ほんとにどうもありがとうございました」
電話は切れた。
静寂。
少しだけ、部屋に冷気が戻ってくる。
液晶画面に残った通話時間の表示をしばらく明理はみつめ、そして目をつぶり、もう一度だけ深呼吸をして、電話のフリップを閉じた。
「また、行くから、か」

いいよ。またそのうち行くから。その時に渡してくれれば。

彼の言葉を明理は反復した。また、来てくれる、か。もちろん、その時はちゃんと渡しますよ。

明理は手袋を自分の手にはめてみる。ぶかぶかだ。でも、暖かい。ぬくもりが手を包み、そして、さっきまですきま風が吹いていた場所を満たしていく。

この手ごと…あたしごと、ってのはダメかな?

「なんてね…」

そんな事をふ、と考えた瞬間3回目のクシャミが出た。

「さ、始めよっか」
明理は立ち上がる。
とりあえず部屋に暖を灯そう。あの人がくれたぬくもりが消えないうちに。

あの人がくれたぬくもりを、明日の元気にするために。

Happy Birthday My Dear.

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